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名古屋高等裁判所 昭和42年(ネ)1036号 判決 1974年11月27日

控訴人 旧商号スワロー化成工業株式会社 スワロー企業株式会社

被控訴人 不動建設株式会社

主文

被控訴人の本訴につき、本件控訴を棄却する。

控訴人の反訴につき原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、五六万〇五〇〇円およびこれに対する昭和四〇年六月一八日以降支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求(当審において予備的に追加した請求を含む)を棄却する。

訴訟費用(本訴、反訴を含む。)は、第一・二審を通じ全部控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し金一七五二万一五〇〇円およびこれに対する昭和四〇年六月一八日以降支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の提出・援用・認否は左に付加するほか原判決事実摘示と同一である(ただし、原判決三枚目表八行目から九行目にかけて「八幡製鉄株式会社製」とあるのを「日本シポレツクス工業株式会社製」と訂正する。)から右記載をここに引用する。

(被控訴人の主張)

一  本件建物の建築については、注文者である控訴人が屋根および外壁にシポレツクス(内部に配筋、鉄骨のある軽量気泡コンクリート製建築材)を使用することを被控訴人に指図したのであつて、この点に本件請負契約の特異性がある。すなわち、控訴人は被控訴人と本件請負契約を締結する以前にシポレツクスの製造元である日本シポレツクス工業株式会社との間に本件建物についてのシポレツクスの使用計画を細部にいたるまで策定してあつた。従つて、被控訴人はシポレツクスの工程については形式上請負人になつたにすぎないものである。

しかるに、このシポレツクスなるものは、当時スエーデンより技術を導入しわが国で製造され始めて間のない建築材で、全国的にも使用例少なく、名古屋市周辺では本件工事が初めてであり、技術的に完成の域に達したとはいいがたく、内部配筋鉄骨の発錆および吹付塗料による亀裂を生ずる欠点があつたのである。本件建物の瑕疵は、かかる新製品を控訴人が特に選択し、被控訴人にこれを使用するよう指図したことに起因するものである。

二  本件建物の鉄骨および基礎の各工事についても同様のことがいえる。すなわち、控訴人は本件請負契約に先立ち、八幡製鉄株式会社(以下「八幡製鉄」という。)との間に打合せをなし、本件建物の鉄骨および基礎につき規模および構造計算をすませ、設計図を完成していたのである。そして、被控訴人は右設計図に従つて建設工事を進行させたにすぎない。基礎工事については、控訴人は被控訴人を除外し、別途工事として山信建設株式会社に前記設計図による施工を請負わせた。

控訴人は、本件建物に不同沈下とこれに伴う破損が発生し使用に堪えないというが、右瑕疵は、被控訴人が設計にも実施にも関与していない基礎工事の不完全に起因するもので被控訴人には責任がない。被控訴人が補修工事を完了した昭和四〇年一月当時には本件建物には不同沈下は存在しなかつたが、その後四年以上の時日の経過により敷地の埋立および基礎工事の不完全に基づき沈下が徐々に進行したのである。

三  控訴人は、右シポレツクスならびに基礎工事の瑕疵につき、被控訴人においてこれを知りながら告げなかつた義務違反があると主張する。しかしながら、シポレツクスの採用施工は、既に述べたように本件請負契約の絶対条件になつており、控訴人、日本シポレツクス工業株式会社および八幡製鉄(鉄骨材供給担当)の間に本件請負契約前再三に亘りその設計施工についての打合せがされていた。被控訴人は、八幡製鉄との間に建材の取引がある関係で右打合せに基づく建設工程を請負つたにすぎず、シポレツクスの使用自体については介入を許されない事情にあつた。基礎工事についても、控訴人は八幡製鉄と建物強度を検討して作成した設計図に基づき、自己の知合である山信建設株式会社に依頼し協議のうえ施工せしめたものである。被控訴人は右のごとくして完成した基礎工事の地上に本件建物を建設したものであつて、控訴人がこれに対し瑕疵告知義務違反を理由に問責することは許されないものといわなければならない。

四  被控訴人は、本件建物に構造上の歪みが存することを理由とする控訴人の補修要求に対しては快くこれに応じ、補強工事施工計画書を提出し、これに基いて施工し一部分ずつ完成の都度検収を受ける約束をした。工期は昭和三九年九月一二日から三〇日間の予定であつたが、着工の当初控訴会社が本件建物に搬入していた物品を引取つてもらうため約一五日を空費した。そのうえ、工事の中途で控訴会社専務沢井徹夫が外遊したので一部ずつの立会検収を受けることができなくなつたため、被控訴人は工事を進捗させることができなかつた。その結果、補修工事はようやく翌四〇年一月中旬竣工したものであり、その遅延の責も全く控訴人の責に帰すべきものである。被控訴人は、右補修工事に全請負代金の四分の一以上にあたる二五〇万円を支出し、いわゆる赤字を出したわけであるが、補修工事による修正の結果は本件建物における最大の歪みが屋根の部分で一一ミリメートルにすぎず、鉄骨建物としては当然許容される限度内のものであつた。控訴人はいまだ本件建物の引渡を受けていない旨主張するが、右のごとく被控訴人は昭和四〇年一月中旬完成し修正結果表まで添えて控訴人に本件建物の引取方を申し出たのであるから、遅くともこの時点において本件建物は控訴人に対し引渡がなされたものといわなければならぬ。また、控訴人は被控訴人においてハイテンシヨン・ボルトを使用しなかつたと主張しているがかかる事実はなく、補修工事の際取り外したハイテンション・ボルトは再使用することなく新品を取替え使用することまでしているのである。以上のごとく、補修工事の完成により本件建物は何らの瑕疵なき状態にあつた(シポレツクスの亀裂や本件建物の不同沈下はその後の時日の経過によりあらわれた現象でこれについては被控訴人に責任なきこと前述のとおりである。)のにかかわらず、控訴人が本件請負代金の殆んど全部を支払おうとしないのは甚だ不当である。

五  控訴人は、前記補修工事着工に際し被控訴人に対する本件請負工事の竣工遅延による損害賠償請求権を留保したと主張する。しかしながら、控訴人は、当時右損害賠償請求権を放棄していたものである。被控訴人としても前記補修工事は赤字工事とはいえ、これを完成すれば請負残代金を完済してもらえると思い、多額の資金を投下して懸命に工事をしたのである。控訴人から右のごとき損害賠償請求を受ける前提であれば、常識上からも被控訴人が前記補修工事をするはずがない。

六  控訴人は、本件建物の完成引渡がないため折角購入したドイツ製機械等がスクラツプとなり、得べかりし営業収入を失つたと主張する。しかしながら、控訴人が本件建物(工場)において製造を企図した化粧板なるものは何らの工業所有権の存せざる商品であつて、デザインの変更によりただちに製造をやめなければならぬようなものである。すなわち、化粧板業界においては単に工場を建設したから利益が挙げられるというものではなく、資金や商品の需要度が重要な要素をなしているものである。従つて、本件建物の使用と控訴人主張の損害との間には何らの因果関係がない。

(控訴人の主張)

一  被控訴人の主張のうち、本件建物の建築につき、鉄骨材料として八幡製鉄のH型鋼を、屋根および外壁の建材として日本シポレツクス工業製造のシポレツクスをそれぞれ使用することが当初より決定されていたこと、本件建物の基礎工事を山信建設株式会社が施工したことは認めるがその余の主張は争う。

二  被控訴人のした工事には工程に誤りがあり、その結果生じた本件建物の瑕疵は補修工事によつても是正されず、本件建物は現在使用不可能の状態にある。すなわち、本件建物は、化粧板(ガラス)製造を目的とする断熱冷暖房その他の設備を有する無窓工場となる予定であつたところ、被控訴人の本件鉄骨組立工事においては特に鉄骨建起し検査および鉄骨本締めの工程における施工が不充分で、控訴人において建物に歪みを発見し是正を申し入れたにかかわらず、仮組みが正確を欠いたまま作業を進行したのである。そのため、本件建物には原審で主張したような瑕疵があつたので控訴人において引渡を受けることを拒み補修工事が施工されるにいたつたのである。補修工事においても被控訴人は、屋根材として使用されたシポレツクスを固定してあるままジヤツキを用いて無理に押し上げ、鉄骨組立の歪みを修正するという誤つた工法をとつたため、シポレツクスに捩れを惹起し、さらに防水壁までも損傷するにいたらしめた。かくて、控訴人の要求した完璧な補修工事はなされないままに終つたのである。

現在、本件建物は、屋根材および壁材のシポレツクスに亀裂が発生しており、天井にも全面に亀裂が発生し、各所において雨漏りしている。しかも右亀裂は常に新しいものが発生し、その程度も進行をつづけているから、遂には鉄筋の発錆による腐蝕でシポレツクスが破断するおそれすらあるのである。また、本件建物は全体に不同沈下が発生し、東南角の基礎を基準とすれば西南角の基礎は七三ミリメートルも沈下し、しかも、この沈下は進行するものと予測されるのである。その他、ボール孔が正確にかみ合わぬため鉄骨材に過大な孔があけられ、ハイテンシヨンボルトによる接合の効果が著しく減殺されていること、入口建具の取付が不完全のため開閉ができないこと等欠陥は枚挙にいとまがない。これを要するに、本件建物は常温常湿の化粧板工場として使用するどころか、シポレツクスの破砕粉片の落下や雨漏りに悩まされ使用自体が危険であり、解体することが望ましいと極言する建築専門家の批評さえ存在するのである、控訴人としては、請負契約の本旨に適合する建物を建築してもらえなかつたばかりか、所有地上に使用不能の無用の長物を残され日々損害を蒙りつつあるので、被控訴人に請負代金を支払う義務は全くない。

三  控訴人は被控訴人から本件建物の引渡を受けていないから、被控訴人は請負代金の請求をすることはできない。すなわち、建物の引渡には当事者双方の立会検査、検査済証・受領証の交換が必要であるが、控訴人は従来本件建物の受領を拒む態度をとつてきているので、建物引渡の手続はとられていないのである。

四  シポレツクスおよび基礎工事の瑕疵については被控訴人において責任を負うべきものである。本件建物の基礎工事は山信建設株式会社が施工したが、右工事の施工は被控訴人の承諾の下になされ、工事の設計書は被控訴人の手を経て右山信建設株式会社に交付せられ、被控訴人の現場監督たる安田主任が工事を監督しているから、被控訴人は右工事の瑕疵の責任を免れえない。被控訴人において、本件建物工事の元請人として地盤の地耐力の調査をすることは建設業者として当然の義務といわなければならない。

次に、シポレツクスについては、控訴人自身が材料としてシポレツクスを支給したものでないことはもちろん、被控訴人もその使用の指定になんら異議をとなえていないから、請負人としてその使用した材料に基づく瑕疵につき責任を負うべきである。仮に、シポレツクスが新種の建材で、これを使用することに疑念があるというなら控訴人に対しその旨を告知する義務があるというべきであるが、被控訴人側は日本シポレツクス工業株式会社と同調し、シポレツクスの安全性を保証し、事故があれば無償でやり直すことを誓約していたのであるからその責任を免れうるものではない。

五  既に述べた本件建物の現状からみても被控訴人はその施工した補修工事により本件建物を請負契約の本旨に従つた完全なものになしえなかつたことが明らかである。被控訴人は補修工事に二五〇万円を投じたことを強調するが、大切なのは投資した金額ではなくて、その結果であることはいうまでもない。控訴人は、補修工事が完璧にできたなら請負代金を支払う旨約束したことはあるが、被控訴人の不完全履行と因果関係のある損害賠償請求権を放棄した事実はない、被控訴人は当初の施工において手抜きと思われるミスをおかし、きわめて不完全な建物を建築したうえ、補修工事もまた不充分なものに止まつたため、遂に使用不能の無用の長物を残す結果に終つた。それにもかかわらず、被控訴人が右不完全な補修工事をなしたことを口実にして一方的に請負代金の請求を強行するのは信義誠実の原則に反するも甚だしいものである。

六  控訴人は、原審において本件建物の引渡遅延による損害賠償請求につき昭和三八年一〇月六日から同四〇年一月二五日までの四七七日分四五三万一五〇〇円を請求していたが、仮に右主張が認められないとすれば、被控訴人は昭和四〇年一月二六日から現在まで本件建物を使用不能のまま放置しその引渡をなしえないでいるから右同日以降四七七日間分の前同額の損害金支払を予備的に主張することとする。

(証拠関係)<省略>

理由

一  被控訴人が建築工事請負を業とするものであることおよび被控訴人が控訴人の注文により昭和三八年八月二〇日控訴人との間に次のとおりの建築請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結したことは当事者間に争いがない。

1  工事名 控訴会社化粧板製造工場新築工事

2  工期 昭和三八年八月二〇日着工、同年九月三〇日完成

3  請負代金額 九五〇万円

4  代金支払方法 控訴人は、同年八月三一日に一〇〇万円を現金で支払い、残金八五〇万円は、工事完成引渡のときに現金一〇〇万円および同日から一二〇日を経過した日を満期とする金額七五〇万円の約束手形を振出交付して支払う。

5  建築材料 鉄骨材料として八幡製鉄株式会社(以下「八幡製鉄」という。)製造のH型鋼を、屋根および外壁の建材として日本シポレツクス工業株式会社(以下「日本シポレツクス」という。)製造のシポレツクスをそれぞれ使用する。

二  成立に争いのない甲第三号証、乙第一ないし第五号証、同第八号証の一ないし三、原審証人上田功男、同山下一成、同新妻正男、同山崎肇(ただし、後記措信しない部分を除く。)、原審および当審証人平原鴻資、同沢井徹夫(ただし、後記措信しない部分を除く。)の各証言並びに当審における鑑定人木沢久兵衛、同吉田憲一の各鑑定の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件請負契約は、化粧板等の製造販売を業とする控訴人が、愛知県津島市神守町中之折所在の控訴人所有地において樹脂特殊加工による化粧板を製造するため、断熱・冷暖房その他の設備により常時恒温・恒湿の状態を維持し得る無窓工場を建設する目的で締結したものであり、その工事内容(規模・構造)および請負代金額の内訳は次のとおりであつた。

(1)  工事内容(ただし、建物の基礎・土間工事は含まない。)

(ア) 鉄骨造平屋建無窓工場 一棟

建築面積八一九・〇平方メートル(梁間(南北方向)一四メートル、桁行(東西方向)五八・五メートル、棟高六・八メートル、軒高四・五メートル)。

(イ) 建物西南隅に出入口一か所(幅員約四・五メートル)を設置し、これに鉄扉を取付ける。

(ウ) 主要構造部である鉄骨(八幡製鉄製造H型鋼)は、柱および合掌部を結合して山型アーチ状に組立て、これを右建物の桁行四・五メートル毎に合計一四組を設置する。

(エ) 屋根および側壁のすべてにシポレツクス(内部に配筋鉄骨のある軽量気泡コンクリート製建材。)を使用し、これを右主要構造部である鉄骨に取付け(伏せ込み)る。

シポレツクスの寸法は、厚さ〇・一二五メートル、幅〇・六メートル、長さ屋根材用は四・四九メートル、側壁用は四・三九メートルである。

(オ) 屋根材シポレツクスの外面はビニールフイルム貼り(シート防水)を施こし、その内面および壁材シポレツクスにはシポコート吹付(防水塗装。シポレツクス内部配筋鉄骨の防錆のためのもの。)を施こす。

(2)  請負代金内訳

(ア) 仮設工事      二三万八三四〇円

(イ) 鉄骨工事     二一四万六三〇〇円

(ウ) シポレツクス工事 五九六万九七三五円

(エ) 金物・薄鈑工事   一三万三〇五〇円

(オ) 左官工事       七万八七六〇円

(カ) 建具工事      二三万九〇〇〇円

(キ) 塗装工事       九万四五八〇円

(ク) 諸経費       六〇万〇二三五円

(二)  本件請負契約に基づく建築工事は、これとは別に控訴人が訴外山信建設株式会社(以下「山信建設」という。)をして施工せしめた基礎工事の完成をまち昭和三八年九月上旬より開始され、工事現場における作業は、鉄骨組立、鉄骨建起し、シポレツクス取付(伏せ込み)および防水・塗装工事の順序で進行したのであるが、右鉄骨建起し工事において、主要構造部である鉄骨の接合部における稜角が正確に一致しなかつたため、建物軒先の整列が不揃いとなり、かつ、直線となるべき棟上面が波打つように撓み、これが肉眼によつて確認し得る程であつた。そこで、被控訴人はシポレツクス取付工事の段階において右鉄骨に存する歪みおよび撓みを補正すべく、鉄骨とシポレツクスとの間に生じた間隙にモルタルを充填する等の対策を講じたけれども、なお極めて不充分なものであつた。

被控訴人は右請負工事を昭和三八年一一月六日完成したが、その後同三九年八月二八日被控訴人が測定したところによると右建物に存する撓み・歪みの程度は次のとおりであつた。

(1)  建物の桁行(東西方向に五八・五メートル)に直角に四・五メートル毎に設置された山型アーチ状の鉄骨一四組の各頂部すなわち棟部分の高低差を測定したところ、東端の鉄骨の棟高を基準とすると、西端の鉄骨の棟高は四〇ミリメートル低いのみであるが、右両端の間において凹部が二か所に存し、東端から五番目のものは基準高より一六一ミリメートル低く、ほぼ中間点(同九番目のもの)において四六ミリメートルにまで回復するが、同所から西端に向い再び低くなり、同一二番目において基準高より七〇ミリメートル低くなつている。

(2)  右に照応して各鉄骨軒先も不揃いであり、東端の鉄骨の南北の軒先と西端の鉄骨の各軒先との間を直線で結ぶと、南側および北側の軒先の各一か所が建物内側に僅かに(三ないし四ミリメートル)傾いているほかは、すべて建物外側に突出し(すなわち鉄骨柱が外側に傾斜していることを意味する。)、ことにこれは南側において著しく、東端から四番目の鉄骨は六八ミリメートル、同五番目の鉄骨は九四ミリメートル、同六番目の鉄骨は六三ミリメートルそれぞれ外側に傾いている。

(3)  次に各鉄骨柱の梁間の寸法を、その基礎部分と軒高部分において比較すると、いずれも基準寸法に合致する西端の鉄骨の内側寸法一三・七メートルに対し、五〇ミリメートル以上超過する軒先部分が五か所に存し、ことに東端から四番目の鉄骨において七七ミリメートル、同五番目の鉄骨において九〇ミリメートル、同六番目の鉄骨において七〇ミリメートルそれぞれ基準寸法より長くなつている。

しかして、本件建物につき前認定の歪み等の生じた原因は、その主要構造部である鉄骨の工場における加工精度が不正確であつたことおよび工事現場における被控訴人の鉄骨組立および鉄骨建起し工事に際しての検査が粗漏であつたことによるものであつた。

(三)  被控訴人は、本件請負契約に基づく工事を昭和三八年一一月六日竣工(ただし、当時内壁シポコート吹付工事および外壁の吹付後の変色手直しの各未済工事が存したが、これらはいずれも控訴人の都合により未済工事となつたものである。)したものとして、同月七日控訴人に対し竣工届を提出し、右建物の引渡をしようとしたが、控訴人は主として右建物に存する前記歪み・撓みによる瑕疵を理由にその引渡を受けることを拒み、ここにおいて両者の見解が対立するにいたつた。しかし、その後控訴人から八幡製鉄を通じて請負代金減額の方法による解決案が示され、被控訴人においても事態の円満な解決を図るべく、控訴人の提案について検討し、控訴人との折衝を重ねたが、代金減額の程度についての折合いがつかないうち、同三九年八月一九日にいたり、控訴人から被控訴人に対し、請負代金減額の方法による解決を拒絶し、これに代えて本件建物の改造もしくは完璧なる補修の請求がなされるにいたつた。

そこで、被控訴人は、控訴人の右申出に応じて本件建物の補修工事を施工し、これにより右請負代金全額の支払を受けるべく、まず、同年九月一日右補修工事の順序および内容の詳細に関する補強工事計画書を作成し、これを控訴人に提出してその承諾を得た。工期は同年九月一二日から同年一〇月一二日までの三〇日間の予定であつたが、当時控訴人が本件建物を物品倉庫として使用しており、着工の当初控訴人が本件建物に保管していた物品を搬出してもらうために約一五日を要し、そのため工事着手が同年九月二七日頃になり、完成したのは同四〇年一月二五日であつた。

被控訴人の施工した補修工事の内容は、まず、建物内部および外部に足代を組み、ワイヤーロープで仮補強を行い、建物内部から各鉄骨の棟部分をオイルジヤツキで支えたうえ、柱端面取合プレート(接合部)を解体し、右ジヤツキでさらに持上げて歪みを矯正し、接合部を新品のハイテンシヨン・ボルト(高張力ボルト)を用いて締付け、新たな溶接を施こした。また、右取合部分に取付けられていたシポレツクスは右工事に支障があるため全部取外し新品と交換されたが、右はシポレツクスの製造元である日本シポレツクスの指示に従い慎重に施工された。なお、右工事中に発見されたシポレツクスの亀裂(ヘヤークラツク)部分には、同会社の指示によりシポレツクス専用の充填剤および特殊塗料を使用して補修が施された。

以上の補修工事により、同工事前に存した本件建物の歪みの殆んどが修正されたのである。すなわち、主要構造部の鉄骨一四組の各頂部の高低差が西端から四番目の鉄骨において一一ミリメートル高いほかは前記の各測定の方法による高低差および長短差がすべて各基準高および基準長より一〇ミリメートル以内に修正されたのであつた。しかして、右補修工事の方法は、当時における建物の状況からすると、すでにシート防水工事を施した屋根材シポレツクスのすべてを取外して行うなど費用の支出を度外視した最善の方法には及ばないにせよ、被控訴人において、請負代金額の二六パーセントに相当する二五〇万円の費用を投じて施工したものであり、かつ、構造計算上からみても控訴人の目的とする工場として使用するにつき何ら支障のない強度と耐久力を保有するものであつた。

ところで、右補修工事は前記補強工事計画書に基いて施工し、一工程毎に完成の都度控訴会社専務取締役沢井徹夫の検収を受ける約定であつたが、被控訴人が右工事に着手して間もない昭和三九年一〇月二日から同年一一月二日までの期間右沢井専務が代理者もおかず観光のため渡欧し、一工程毎の立会検収を受けることができなくなつたため、工事の進行に多大の不都合を生じた。そして、右沢井が帰国直後本件建物を見分し、軒先部分のシポレツクスの補修が不完全であることを指摘し、右シポレツクスを取換えるよう要請したところから、被控訴人において新たに右部分のシポレツクスを発注する必要が生じそのため補修工事の完成はさらに遅延するにいたつた。また、被控訴人は右補修工事と併せて未済工事であつた内壁シポコート吹付工事等も完成し、昭和四〇年一月二五日右工事担当現場主任上田功男が右沢井専務に対し、補修工事による修正結果表を提出し、右工事が全部終了した旨報告し、本件建物の引取方を求めたところ、同人は「これでよろしい。他に補修工事はもうない。」と言明した。

以上の事実が認められ、右認定に反する原審証人山崎肇、同杉山力雄の各証言、原審および当審証人沢井徹夫の証言は前掲各証拠と対比して措信し難く、原審証人山下一成の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の記載日付は同証言および成立に争いのない乙第二号証の記載日付と対比して措信し難い。他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。

三  右認定の事実によれば、被控訴人が昭和三八年一一月六日本件建物が竣工したものとして、同月七日控訴人に対し竣工届を提出した当時においては、本件建物には、その主要構造部である鉄骨の加工精度が不正確であつたことおよび被控訴人の鉄骨組立工事等に際しての検査に手抜かりの存したことに起因し、前認定のとおりの歪み・撓み等の瑕疵があつたものである。しかして、右瑕疵の程度は、通常の使用目的をもつて建設される工場用建物においては、その使用目的に照らしいわゆる許容差の範囲内にあるものと認め得る余地が存するけれども、前認定のとおり、断熱冷暖房その他の設備により常時恒温・恒湿の状態を維持することを目的とする本件建物においては、右と異なり許容差の範囲は極めて狭いものというべきである。そうとすれば、本件建物に当初存した前記歪み等は、許容差の範囲を超え建物の瑕疵に該当するものというべく、その引渡のための提供をもつてしては、本件請負契約における債務の本旨に従つた履行があつたものと解することはできない。

しかしながら、被控訴人が控訴人からの請求により前記歪み等を修補すべく施工した前記補修工事完成当時においては、残存した歪み等の程度は、僅か一一ミリメートルの範囲を超えないものであつて、本件建物の規模・構造・使用目的等前述の特殊性を考慮しても、もはや、いわゆる許容差の範囲を超えないものとなつたというべきである。また控訴会社専務取締役沢井徹夫が右補修工事施工中において、工事計画書に予定されていなかつた補修を要請するなど本件建物について不満とするところをすべて指摘しており、右工事完成に際しての上田現場主任からの報告に対しても格別異議を述べていないことなどからみて、控訴人としても、右補修工事終了後においては本件建物全般にわたり、もはやとくに指摘するほどの瑕疵が存しないと判断していたものと推認される。

そうとすれば、本件建物は、前記補修工事の完了とともに昭和四〇年一月二五日竣工し、被控訴人においてその受領を求めたことにより債務の本旨に従つた履行をなしたものというべく、これにより控訴人は被控訴人に対し、前記請負代金の支払義務を負うにいたつたものといわなければならない。

四  これに対し、控訴人は、「本件建物は、控訴人の要求した完璧な補修工事がなされないままの状態にある。そのため本件建物は現在屋根材および壁材のシポレツクスに亀裂が生じ、天井にも全面に亀裂が見られ、各所において雨漏りしている。そのうえ、常に新しい亀裂も発生し、破損の程度が進行を続けているから、遂には鉄筋の発錆による腐蝕でシポレツクスが破断するおそれすらある。また、本件建物には、全体に不同沈下が発生し、東南角の基礎を基準とすれば、西南角の基礎は七三ミリメートルも沈下し、しかもこの沈下はなお進行するものと予測される。」と主張する。

そして、本件工場の内部の写真であることに争いのない乙第六号証の一ないし三八、同第七号証の一ないし三九、原審証人上田功男、当審証人水野辰男、同吉田憲一、原審および当審証人沢井徹夫の各証言、当審における鑑定人吉田憲一、同木沢久兵衛の各鑑定の結果を総合すれば、(1) 本件建物に使用されたシポレツクスには、被控訴人が前記補修工事に着手した昭和三九年九月当時において、亀裂(ヘヤークラツク)の発生が認められ、右補修工事に際し、右亀裂には日本シポレツクスの指示によりシポレツクス専用の充填剤および特殊塗料を使用して補修が施されたのであるが、それにもかかわらず、右補修工事終了後においても右亀裂はその進行を止めず、右工事終了後五年有余を経過した同四五年三月当時においては、屋根材および壁材のいずれにも亀裂が発生しているが、特に屋根材に使用されたシポレツクスの天井面におけるそれが顕著に認められるのである。すなわち、屋根材についてみると、亀裂の発生は特に天井面に多く、屋根面に少なく、天井面におけるそれは天井全面にわたり大部分の亀裂は材の長さの方向に生じ、その長いものは殆んど材の全長におよび、さらにその周囲において剥落を生じ、天井面の外観を著しく損なつており、しかもこれらの部分においては内部鉄筋が露出して錆を生じ、その腐蝕が構造的にも憂慮される状況にある。なお、材の端部・材と鉄骨の取付部・建物の隅角部に斜方向または不整形に発生した亀裂があるが、これらは埋込み鉄筋に関係なく不規則状に発生し、明らかに前者と発生原因を異にする。しかし、この種亀裂による被害は前者のそれと比較すると僅かに過ぎない。材の屋根面における亀裂は、防水層により被覆されているので、要所においてこれを剥がして点検すると、天井面程の著しい亀裂は認められないが天井面の各所において雨漏りがすることからみて、その近辺の屋根面に亀裂が発生しているものと推認できる。また、壁材についてみると、その亀裂の発生は天井面より少なく、亀裂幅も細く、剥落を生じた部分も僅かである。壁面の亀裂は内外面共にあらわれ、特に建物の西側および北側に多く、その発生状況は屋根材におけるそれとほぼ同一の様相を示し、殆んど大部分の亀裂が材の長さ方向に埋込み鉄筋にそつて発生しており、これらの亀裂の発生原因は屋根材におけると同一であることが明らかである。なお、右の亀裂と様相を異にする斜方向または不整形状の亀裂が屋根材における場合と同様に認められるが、これらの亀裂は埋込み鉄筋に関係なく発生し、前記の亀裂とはその発生原因も異ることが明らかである。次に、これらの亀裂の進行状況についてみると、亀裂の発生とこれによる損傷の程度はたえず進行していることが現認され、特に壁材における新しい亀裂の発生が著しいことが認められる。(2) 本件建物の基礎についてみると、本件建物敷地はもと農地であつたが昭和三七年六月頃埋立てて造成したものであり、比較的軟弱な地盤であつた。本件建物の基礎工事は、前認定の主要構造部である山型アーチ状鉄骨合計一四組の各脚部に対応する合計二八個所においてそれぞれ地盤を堀り下げ、栗石を敷き、捨てコンクリートを打敷し、その中心部に鉄骨配筋し、アンカーボルトを埋込んだものであるが、建築当初において同一水平面上にあつた筈の各コンクリート基礎が、その後五年有余を経過した昭和四四年一月当時において各基礎上端の沈下量を測定したところ、右建物東南角の基礎(東端の鉄骨の南側の脚部の基礎)の天端を基準高とすると、その他の基礎のすべてが右基準よりも不同沈下しており、その程度は特に建物北側の基礎において著しいことが認められる。すなわち、同建物南側にそつて設置された基礎における沈下量が六・五ないし三五ミリメートルであるのに対し、北側にそつて設置された基礎における沈下量は四六ないし七三ミリメートルに達しており、右不同沈下が本件建物建築後における時日の経過により生じたものとすれば、今後も右沈下は多少とも進行するものと予測される。以上(1) および(2) の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。

しかしながら、(1) 前掲鑑定人木沢久兵衛の鑑定の結果によると、次の事実が認められる。すなわち右シポレツクスは、その取付工事施工当時においては充分な強度を保持し、工事の際通常予期される外力に耐えることができ、強度上の欠陥はなかつたものと推定されるのであり、それにもかかわらず右亀裂が発生したのは、主としてその材質に起因し、特にシポレツクスの耐久力および配筋鉄骨の防錆力の不足によるところが多いのである。特に、右亀裂の大部分を占める長さ方向の埋込鉄筋にそつて現われた亀裂の原因は右の欠陥によるものであり、施工時または施工後に加えられた外力には殆んど関係がない。そして、右亀裂面に露出した鉄筋は、その発錆が著しく、引張力低下による材の破壊が憂慮されるほどであるが、さらに露出していない埋込鉄筋が発錆していることによつてもその防錆力の不足が明らかであり、右埋込鉄筋自体の発錆により材の断面積が膨張し、これが亀裂発生の原因となつているのである。また右亀裂は取付工事施工後に、使用条件および環境条件の苛酷な部分より発生し始め、次第に全般におよびつつあるが、これは曝露・結露・風化等の影響によるシポレツクスの耐久度の減退に起因するものである。右以外の一部の亀裂すなわち、材の端部・材と鉄骨との取付部・建物の隅角部等に生じた亀裂は主として取付施工時またはその後に加えられた外力によるものであるが、これらの亀裂は前記の亀裂と比較すると極めて少ない。以上の事実が認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。以上認定の事実によれば、本件建物に取付けられたシポレツクスに現存する前記亀裂(ヘヤークラツク)の発生は、その殆んどが材の耐久力および配筋鉄骨の防錆力の不足等材質に起因するものであり、被控訴人の施工した本件建物建築工事およびその補修工事に起因するものでないことが明らかである。しかるところ、控訴人は本件請負契約締結以前にすでに本件建物にシポレツクスを屋根材および壁材として使用することを確定していたものであり、この方針にそつて本件請負契約をなし、被控訴人は控訴人の右シポレツクス使用の指定に基づき本件建物にこれを使用したものであることは当事者間に争いがない。してみると、本件建物に存するシポレツクスの亀裂による前記瑕疵は、注文者である控訴人の指図によつて生じたものというべきであり、被控訴人が右瑕疵について瑕疵担保責任を負担すべきものではない。(2) また、本件建物に現在不同沈下が存することは前認定のとおりであるけれども、その基礎工事は、控訴人が本件請負契約と別個に訴外山信建設をして施工させたものであることは当事者間に争いがないところ、本件建物の不同沈下が右基礎工事の不完全に起因することは明らかであるから、被控訴人において右基礎工事の不完全に基づき本件建物に生じた瑕疵に対する担保責任を負担すべき理由がないことはいうまでもない。

以上のとおりであるから、控訴人主張に係る本件建物に現存する前記瑕疵は、いずれも本件請負契約に基づく被控訴人の瑕疵修補義務の範囲に属さないものであるというべく、控訴人の右主張は採用できない。

五  次に、控訴人は、「シポレツクスの使用については、控訴人自身が材料としてこれを支給したものでなく、被控訴人もその使用の指定になんら異議をとなえていないから、請負人としてその使用した材料に基づく瑕疵につき責任を負うべきである。仮に、シポレツクスが新種の建材で、これを使用することに疑念があるというなら、控訴人に対しその旨を告知する義務があるというべきである。」と主張する。

原審証人山崎肇の証言、原審および当審証人平原鴻資、同沢井徹夫の各証言を総合すると、次の事実が認められ、他にこの認定を左右するに足る証拠は存しない。

(1)  控訴人が樹脂特殊加工による化粧板の製造を目的として、断熱・冷暖房その他の設備により常時恒温・恒湿の状態を維持し得る無窓工場を建設する計画を立てていたことは冒頭認定のとおりであつて、控訴人はこれに使用するための断熱性の高い建築材料を物色していたところ、たまたま取引先である旭硝子株式会社名古屋支店から同会社がスエーデンから導入した技術により建築用材シポレツクスを製造販売すべく新たに日本シポレツクスを設立したことを知つた。控訴人が本件請負契約を締結した昭和三八年八月当時は、日本シポレツクスがシポレツクスの製造を開始してから約一〇か月を経過した初期の段階で、全国的にも使用例が少なく、同会社名古屋営業所においても岐阜県に工事実績一例を経験したのみであり、もとより建築業界においてもその耐久性・断熱性・強度等建築材料としての性能に対する評価は確立するにいたつていなかつた。しかし控訴人は前記旭硝子株式会社名古屋支店から日本シポレツクスの紹介を受け、同会社からシポレツクスが在来の建材と比較して断熱効果の点で特に優れた性質を有し、建物内部の温度と湿度を常時一定に維持する必要のある控訴人の工場に最適であると推薦され、他方、シポレツクスを使用する建築物の柱・梁等には八幡製鉄製造のH型鋼の使用が指定されていて同会社名古屋事務所建材部からも、建物の構造計算、工事設計図作成等について協力する用意があるとの申出を受けていた。のみならず、控訴人は、自ら、前記岐阜県におけるシポレツクスによる工事実例をはじめ日本シポレツクス尼崎工場における試験用建物および建設省建築研究所における建物見本を実地に見分調査する等あらゆる点から慎重に検討した結果、シポレツクスが在来の建材と比較して断熱性が特に優れており、控訴人の計画する工場建物に適合することおよびこれを使用することにより工事期間を短縮することが可能であるとの確信を得ていたものであつて、これらの事情から右工場建設にシポレツクスを使用することを決定し、昭和三八年六月頃日本シポレツクス名古屋営業所に対しその意向を表明するにいたつたのである。

(2)  かくて、日本シポレツクス名古屋営業所は八幡製鉄名古屋事務所建材部と協力して控訴人の注文にかかるシポレツクス使用工場建物に必要な構造計算、その他必要な基礎資料の調査をなしたうえ、これに基づいて建物設計図および基礎工事設計図を作成した(右設計図の内容は本件建物の規模・構造および基礎工事についてさきに述べたところと同一である。)。

(3)  また、控訴人は、当初から本件工場建設工事のうちシポレツクス工事(シポレツクスの供給とその取付工事、屋根防水工事および塗装工事)は他の部分と別に製造元である日本シポレツクスとの間の直接の請負契約とすることを希望し、同会社においても控訴人の右意向にそうべく、シポレツクス工事のみについての請負工事代金額の見積りを立てこれを控訴人に示していた。

(4)  以上の経緯から明らかなとおり、本件建物建築工事は、その主要部分を占めるシポレツクス工事(その代金額は本件請負代金全体の六二・八パーセントに相当する。)につきすでに日本シポレツクス自身による請負施工が予定され、さらにその基礎工事も山信建設の手で施工されたため、残るところは鉄骨工事のみとなつたのである。そこで、控訴人は、八幡製鉄名古屋事務所の紹介により、右残余工事を同会社の系列に属する被控訴会社名古屋支店に依頼すべく折衝したところ、被控訴人から、控訴人のいうように本件請負契約をシポレツクス工事とそれ以外の工事とに分割し、各請負人が別個に施工することになれば、工事全体の責任の所在が不明確となり、作業の進捗にも支障の生ずることが予想されるから、請負工事全体についての請負人を一応被控訴人とし、そのうちシポレツクス工事を被控訴人から日本シポレツクスに下請させるのが合理的であり、また、これについては、さきに控訴人と日本シポレツクスとの間で成立を予定した請負契約の内容をそのまま被控訴人との間の元請負契約の内容の一部とするならば、控訴人にとつても不利益はない、との意見が示され、控訴人および日本シポレツクスも被控訴人の右提案に同意した。

(5)  そこで、控訴人、被控訴人および日本シポレツクスの三者が協議した結果、さきに同訴外会社と八幡製鉄の協力によつて完成した前記基礎設計図および建物設計図により、すでに控訴人において別途依頼した山信建設の施工に係る基礎工事のうえに、本件工場を建築することを内容とする本件請負契約が締結され、同時に、被控訴人と日本シポレツクスとの間では本件請負工事のうちシポレツクス工事を同訴外会社と控訴人との間に既に合意されていたのと同一条件をもつて被控訴人から同訴外会社に(もつとも、形式上は両会社の中間にさらに三菱商事株式会社が介在している。)請負わせたのであつた。

以上認定の事実によると、本件建物の建築について控訴人が屋根および外壁に使用する建材として、当時製造が開始されて間のないシポレツクスを選択した所以は、右建物自体の特殊な使用目的によるものであり、控訴人自身その見分調査の結果により在来の建材と比較して本件建物の使用目的に最も適合するものであるとの確信を有し、また、右シポレツクス工事については、日本シポレツクスとの間の直接交渉により同会社をして請負施工させることを前提とする基礎および建物設計図がすでに完成するまでにいたつていたのである。そして、被控訴人は、本件工事の計画がほとんど確定した段階ではじめてこれに関与することになつたものであり、しかもシポレツクスが当時未だ新製品の域を出でず、被控訴人自身これを使用した経験もなく、建築業界においてもその性能に対する評価が確立するにいたつていなかつたのであるから、控訴人の指図によるシポレツクス使用の適否を判断することすら不可能であつたものといえる。また仮に、被控訴人において、シポレツクス使用の経験がないところから、その耐久性等について若干の疑念を抱くべきであつたとしても、本件工場建設計画につき被控訴人の関与した前記時点においては、もはやそのような単なる憶測の域を出ないものを控訴人に告げたところで、所詮無意味であるばかりか、かえつて控訴人の反感を買うおそれすらないわけではなく、このような場合においてまで請負人たる被控訴人が控訴人主張の告知義務を負うべきものと解することは相当でない。控訴人の右主張は採用できない。

なお、控訴人は右主張と関連して、被控訴人が日本シポレツクスと同調してシポレツクスの耐久性を保証し、事故があれば、無償でやり直すことを誓約していたのであるから、その責任を免れないと主張する。

そして、原審証人平原鴻資の証言中には、当時被控訴会社名古屋支店長であつた同人が本件建物に存した歪み・撓み等による瑕疵担保責任の問題を解決するため、控訴人との間に前認定の請負代金減額の方針による折衝を継続していた過程において、控訴会社専務取締役沢井徹夫に対し右主張にそう発言をしたことを認めうる部分が存在する。しかしながら、原審および当審証人平原鴻資、同沢井徹夫の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、平原支店長の右発言は、当時本件建物に取付けられたシポレツクス表面に施工時に加えられた外力によるものと推測される若干の亀裂が残存したところ、その拡大・進行するおそれに対する控訴人の危惧の念を解消すべく、同支店長において製造元である日本シポレツクスの技術陣に実地調査を依頼し、同会社から右亀裂は絶対に拡大・進行するおそれがないとの見解を得て、これを信頼してなされたものであつたこと、被控訴人としては、前認定のように当時国内において製造開始されて間のない新製品であるシポレツクス使用の工事経験がなく、また、その材質・耐久力等に関する知識を殆んど有しないにもかかわらず、控訴人の指定によりこれを本件建物に使用せざるをえなかつたわけであり、同支店長の右発言の趣旨は、日本シポレツクス側の右見解に依拠し、当時存在した右亀裂の発生箇所・程度および当時推測された発生原因から判断して、その後施工された前認定の補修工事における右亀裂の補修方法と同程度のもの、すなわち、シポレツクス専用の充填剤および特殊塗料を使用しての通常の補修を施こすことを保証するというにあつたこと、従つて、被控訴人はもとより製造元である日本シポレツクスにおいてすら当時予見しえなかつたシポレツクスの材質、特にその耐久力および配筋鉄骨の防錆力の不足に起因する前認定の亀裂発生による異常かつ広範な損傷(右亀裂発生の真因は当審における鑑定人木沢久兵衛の鑑定の結果により初めて判明したものである。)についてまでこれを保証するというものではなかつたこと、他方控訴人としても、当時右亀裂発生の原因は、被控訴人においてハイテンシヨン・ボルト(高張力ボルト)使用による摩擦接合を行わない等施工上の手抜かりによつて本件建物に歪み等が生じたことにあるものと確信しており、自らが厳選したシポレツクス自体の材質に欠陥が存することは夢想だにしないところであつたので、平原支店長の前記発言の趣旨をその真意に即して理解していたこと等の事実が認められる。してみると、前記補修工事後において、本件建物に発生したシポレツクスそれ自体の材質に起因する亀裂は、平原支店長が右発言によつて保証した瑕疵修補義務の範囲に含まれないことが明らかであるというべく、被控訴人において同支店長の右発言により現に本件建物に存するシポレツクスの瑕疵につき新たに控訴人に対し担保責任を負うにいたつたものと解すべきではない。控訴人の右主張も採用できない。

六  控訴人は、さらに、「本件建物の基礎工事の瑕疵については被控訴人において責任を負うべきものである。右基礎工事は山信建設が施工したが、これは被控訴人の承諾の下になされたものであり、工事設計図も被控訴人の手を経て右山信建設に交付せられ、被控訴人の現場監督たる安田主任が工事を監督しているから、被控訴人は右工事の瑕疵の責任を免れえない。被控訴人において、本件建物工事の元請人として地盤の地耐力の調査をすることは建設業者として当然の義務といわなければならない。」と主張する。

しかしながら、本件におけるあらゆる証拠によるも、被控訴人が、山信建設の施工にかかる右基礎工事について、その設計図を審査して承諾を与え、または右工事施工を監督する等同工事につき実質的に関与した事実を認めることはできない。かえつて、本件建物の基礎設計図は、被控訴人が本件請負契約を締結する以前において、すでに日本シポレツクスおよび八幡製鉄の協力により完成され、控訴人において右基礎工事をその余の工事とは別に山信建設をして右設計図に基づき請負施工させたものであることは前記のとおりであり、当審証人平原鴻資、同沢井徹夫(ただし、後記措信しない部分を除く)の各証言によれば、控訴人が右基礎工事をその余の工事とは別に山信建設に依頼したのは、同会社が地元の建設業者であり、以前にも同会社に工事を請け負わせて懇意であつたことによること、被控訴人としては、もとより右基礎工事には直接の関係がないわけであるが、その地上に本件建物を建築する関係上右基礎工事の内容についても承知しておく必要があるため、山信建設に基礎設計図が交付されるに際しこれを閲覧したにすぎないこと、また、右山信建設の基礎工事に寸法違いがあると、当然被控訴人の担当する鉄骨の組立ておよび建起し工事において鉄骨の脚部寸法と適合しない結果になるので、右基礎工事におけるアンカーボルト打込みに際して被控訴人の現場主任が立会つたにすぎないこと、被控訴人としては山信建設の工事の結果を信用しており、後日本件建物が不同沈下を起すなどということは夢想もしなかつたこと等の事実が認められ、右認定に反する当審証人沢井徹夫、同水野辰男の各証言は前掲証拠と対比しにわかに措信し難く、他に右認定を動かすに足る証拠は存しない。してみると、被控訴人が本件建物の工事に着工した段階においては被控訴人が山信建設を差し置いて右基礎地盤の地耐力の調査を実施する等同会社の施工内容に干渉することはもはや困難な状況であつたのであり、被控訴人が右地耐力の調査をしなかつたからといつて被控訴人に請負人としての義務違反があつたものということはできない。要するに、被控訴人が右基礎地盤の上に本件建物を建てたのは控訴人の指図によるものというべきであり、その結果生じた本件建物の不同沈下の瑕疵の責任はこれを被控訴人に対して追求し得べきものではない。よつて、控訴人の右主張は採用できない。

七  控訴人は、さらに、「被控訴人は当初の施工においてきわめて不完全な建物を建築したうえ、補修工事もまた不充分なものに止まつたため、遂に使用不能の無用の長物を残す結果に終つた。それにもかかわらず、被控訴人が右不完全な補修工事をなしたことを口実にして一方的に請負代金の請求を強行するのは信義誠実の原則に反する。」と主張する。

しかしながら、本件請負契約に基づく被控訴人の施工は、その当初においては前認定のような歪み等の瑕疵を帯びていたが、その後の補修工事において、右瑕疵が修補され、被控訴人が請負代金の請求をなし得るにいたつたことは既に見たとおりである。また、控訴人主張の本件建物に現存する瑕疵については控訴人において被控訴人に対しその責任を追求し得べきものでないこともまたさきに詳述したとおりである。そして、その他に被控訴人の本件請負代金請求をもつて、信義誠実の原則に反するものと認むべき事由は見当らない。よつて、控訴人の右主張もまた採用できない。

八  そこで、控訴人の反訴請求(本件建物の引渡・遅延による損害賠償請求)について審按する。

(一)  本件請負契約の工期が同年八月二〇日着工、同年九月三〇日完成の約定であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、右契約において、検査および引渡の時期は完成の日から五日以内とする旨および被控訴人が約定の期間内に工事の完成引渡ができないときは、控訴人は遅滞日数一日について請負代金の一〇〇〇分の一以内の違約金を請求することができる旨の各約定の存したことが認められる。

しかして、本件において控訴人は現に受領遅滞の状態にあるわけであるが、竣工遅延との関係において本件建物の引渡があつたものとみなすべき時期は遅くとも被控訴人が控訴人に対し補修工事による修正結果表を提出し、本件建物の引取方を求めた昭和四〇年一月二五日と解すべきであるから、控訴人は契約上の引渡の時期である昭和三八年一〇月六日から同四〇年一月二五日までの間、本件建物の完成引渡を受けることができず、そのため右建物をその予定した使用目的に従つて使用することができなかつたことが明らかである。

右事実によれば、控訴人は、昭和三八年一〇月六日から同四〇年一月二五日までの間における右建物引渡遅延による損害賠償として前記特約に基づく一日につき請負代金額の一〇〇〇分の一の割合による金額を請求する権利を有することが明らかであるが、他方、右期間経過後にかかる部分(控訴人が当審において予備的に請求する昭和四〇年一月二六日以降四七七日分の右と同額の損害賠償請求)はもとより、右特約により損害賠償額を予定した趣旨からして、右金額を超える損害(控訴人主張の本件建物内に設置すべく新たに購入した機械の代金相当額の損害)についてはこれが賠償を請求しえないものと解するのが相当である。

(二)  被控訴人は控訴人において前記補修工事着工に際し、被控訴人に対する本件工事竣工遅延による右損害賠償請求権を放棄した旨主張する。

成立に争いのない乙第五号証、原審証人新妻正男の証言、原審および当審証人平原鴻資、同沢井徹夫(ただし、後記措信しない部分を除く)の各証言を総合すると、

被控訴人は昭和三八年一一月六日本件請負契約に基づく工事が竣工したとして、同月七日控訴人に対し、竣工届を提出して本件建物の引取方を求めたところ、控訴人は右建物に前認定の歪みおよび撓みが存することおよび鉄骨接合部の締付けにハイテンシヨン・ボルト(高張力ボルト)を使用していないこと等を理由にその引渡を受けることを拒んだ。控訴人は当初本件建物の改築による事態の解決を希望し、八幡製鉄名古屋事務所に相談したところ、同会社から、改築には過分の費用を要するから代金減額による解決が妥当であると勧告され、その後は、当事者においてもつぱら代金減額の程度についての折衝を重ねた。右代金減額については、被控訴人は本件請負工事において被控訴人自身の支出した経費に相当する一一〇万円を右代金額から控除する案を提出したが、控訴人の容れるところとならず、最終段階において二〇〇万円の減額案にまで譲歩するにいたつた。これに対し、控訴人は当初から請負代金額九五〇万円の二分の一ないし三分の一程度の減額を強硬に主張していたもののその後昭和三九年一月頃にいたり代金額の四分の一に相当する二五〇万円程度の減額案にまで歩み寄りの姿勢を示したが、遂に被控訴人の前記提示案と合致するにいたらず、同年三月頃からは交渉の継続が不可能な状況となつていた。その後被控訴人は同年七月二七日専務取締役伊藤茂夫および名古屋支店長平原鴻資の両名をして控訴会社を訪問させ、前同様請負代金額を二〇〇万円減額する条件をもつて解決することを重ねて要望したが、控訴人はこれを拒絶し、同年八月一九日付内容証明郵便をもつて被控訴人に対し、新たに本件建物の改造、もしくは完璧なる補修を請求するとともに、併せて請負工事が予定どおり竣成しなかつたことにより控訴人の蒙つた損害についての賠償請求権を留保する旨の通告をした。これに対し被控訴人は、控訴人の右請求に応じ補修工事を施工することとし常務取締役新妻正男および平原支店長をしてさらに控訴人との折衝に当らせたところ、控訴人が「補修工事が完全になされたならば、請負代金の減額は請求しない」旨確約したため、補修工事をなすことにより紛争を解決することに両者の意見の一致を見た。そこで被控訴人は控訴人の右意向にそう補修工事をするべく、先づ、本件建物に存した鉄骨の歪み等の程度を測定したうえ、前認定のとおり工期を同年九月一二日から同年一〇月一二日までとする補強工事計画書を作成し、これについて控訴人の承諾を得た後二五〇万円を投じて補修工事をしたものである。

以上の事実が認められ、右認定に抵触する原審および当審証人沢井徹夫の証言は前掲各証拠と対比しにわかに措信し難く、他に右認定を動かすに足る証拠は存しない。

ところで、請負契約において、仕事の目的物に瑕疵がある場合に注文者が請負人に対して有する損害賠償請求権は、請負人の注文者に対する報酬請求権と同時履行の関係に立つものである(民法六三四条二項)ところ、右規定の趣旨と右認定の補修工事決定にいたる交渉の経過や該工事の規模等を併せ考えると、控訴人は右交渉の妥結により、被控訴人において右補修工事により本件建物を契約の本旨に従つて完成したときは、右工事の遅延その他を原因として控訴人の蒙つた損害(ただし、右補修工事自体の遅延による一日につき九五〇〇円の割合による後記認定の損害を除く。)についてはこれが賠償を請求しないこと(右損害賠償請求権の放棄)を被控訴人に対し約定したものと解するのが相当である。しかして、被控訴人が右補修工事により本件建物を契約の本旨に従つて完成し、控訴人に対し右建物の引取方を求めたことは前認定のとおりであるから、これにより控訴人の有した右損害賠償請求権は右に説示した限度において消滅したものというべきである。

(三)  ところで、前認定のとおり、右補修工事における工期は昭和三九年一〇月一二日までの約定であつたところ、被控訴人においてこれを完成して控訴人に対し本件建物の引取方を求めたのは同四〇年一月二五日であつて、その間に一〇五日間の工事完成の遅延を生じたことが明らかである。

しかしながら、本件請負契約における前記損害賠償額予定の特約は、注文者である控訴人の責に帰すべき事由による工事完成遅延の場合においても請負人である被控訴人に対し損害賠償義務を負担させる趣旨と解すべきではない(本件請負契約一八条参照・前掲乙第一号証)こと勿論であるところ、(1) 被控訴人において右補修工事に着手しようとした当時、控訴人は本件建物を物品倉庫として使用しており、右着工の当初控訴人において右建物に保管していた物品を搬出するために約一五日間を要し、右期間中は工事に着手することができなかつたことおよび(2) 右補修工事は前記補強工事計画書に基いて施工し、一工程毎に完成の都度控訴会社専務取締役沢井徹夫の検収を受ける約定であつたところ、被控訴人が右工事に着手して間もない昭和三九年一〇月二日から同年一一月二日までの三一日間にわたり右沢井専務が代理者もおかず観光のため渡欧し、一工程毎の立会検収を受けることができなくなつたため、被控訴人の右工事の進行に多大の不都合を生じたことはさきに認定したとおりであつて、右合計四六日間に相当する補修工事の遅延はすべて控訴人の責に帰すべき事由によるものというべきである。そうすると、被控訴人が前記特約による一日につき九五〇〇円の割合による工事完成遅延による損害賠償義務を負担すべき日数は前記一〇五日から右の四六日を控除した五九日の範囲を超えないものと解するを相当とすべく、しかるときは、右賠償額は五六万〇五〇〇円となること計数上明白である。

(四)  控訴人の反訴請求は右限度において理由があるものというべきである。

九  以上説示のとおりであるから、被控訴人が控訴人に対し、前記請負代金債権九五〇万円からすでに控訴人より受領を自認する一〇〇万円を控除した八五〇万円とこれに対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和四〇年三月一四日以降支払ずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は全部正当であるからこれを認容すべきであり、控訴人の反訴請求(当審において予備的に追加した請求を含む)は、被控訴人に対し、損害賠償として五六万〇五〇〇円とこれに対する反訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和四〇年六月一八日以降支払ずみにいたるまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。

よつて、被控訴人の本訴につき右と同旨に出た原判決は相当であり、右部分に関する本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴人の反訴につき当裁判所の判断と異なる原判決を主文のとおり変更し、なお、控訴人が反訴につき当審において予備的に追加した請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九六条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本聖司 川端浩 新村正人)

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